
アナリスト森 好治郎 氏のマーケットウォッチをアーカイブしています。
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昨日のドルの対主要通貨相場は買い戻しが先行して始まったものの、ドルの上昇を阻む悪材料が相次ぎ、前日とは正反対の展開となった。
昨日13時半過ぎに伝わったイランの中距離弾道ミサイル試射の報道は、アハマディネジャド大統領が「米・イスラエルとの交戦は望まない(8日)」と穏健な姿勢を示していただけに、意外感という面でのインパクトがあった。
欧州タイムでは、トルコの米領事館近くで発生した武装勢力と警察間の銃撃戦が、改めて中東発の地政学的リスクを警戒させる格好となった。
NYタイムでは、米政府系住宅金融機関の財務悪化懸念や、格付け会社フィッチがメリルリンチを格下げ方向での見直すとの報道が、来週の金融機関の決算発表前に金融不安を再燃させた。
これにより米主要3株価指数は揃って2%超の下落率となり、米国株全体の動きを示すS&P500は昨年10月の高値からの下落率が20.5%に達し、NYダウに続いて弱気相場入りしている。
このように米ドルを取り巻く市場環境は大きく悪化しているものの、足元の米ドルは依然として不気味な底堅さを維持している。
もっとも、米ドルの総合的な実力を示すFRB算出の実効為替相場は、2002年2月の高値を起点に下落し始め、昨年1月末から今年3月まではほぼ一本調子に下落し、この間の下落率は37.2%に達している。 今年3月の金融恐慌相場で史上最安値を更新するに至っており、一段のドル安には相応の売り材料が必要となってこよう。
昨日はファンドマネジャーがベンチマーク(運用評価の目安)とするS&P500が弱気相場入りしているが、米ドルとの関係では必ずしも「株安=ドル安」とはなっていない。
1970年以降の米株式の弱気相場は7回あり、その下落率は平均31.2%(最小21.0%、最大45.1%)、下落期間は平均11.8ヶ月(最短2ヶ月、最長23ヶ月)となっている。 今回の弱気相場は昨年10月を起点とするため、すでに9ヶ月目に入っており、下落期間が10ヶ月超となった過去4回のケースをみると、株安とドル安が同時進行したのは1回(76年9月〜78年1月)だけで、その他のケースではドル安は一時的でむしろドル高となっている。
そもそも、昨年4月のワシントンG7では、声明で世界経済は過去30年間でもっとも力強い拡大基調を維持していると謳われ、マーケットでは世界同時株高という状況が続いた。
その株高局面で米ドルの実効為替相場は前頁のチャートが示すようにほぼ一本調子で下落してきたわけである。
米財務省の国際証券投資統計によれば、米投資家による海外投資は2006年1月〜2007年12月迄の2年間に4,617億jに達している。 最新データとなる4月は、2ヶ月連続で売り越し(海外からの資金引き揚げ)となっている。
今週の日経ヴェリタスは、「世界株安、砦はどこに」という特集記事を組み、P.3には世界の主な株価の騰落率(08年上半期)を掲載しているが、下落率トップはベトナムVN指数の▲56.9%、続いて中国上海総合指数の▲48.0%、順位は若干飛ぶがインドムンバイSENSEX30の▲33.6%など、昨年までの世界株高をけん引してきたグループが大きく下げている。
これらは非資源・新興国という位置付けにあり、株価下落が顕著となっているが、足元のグローバル・インフレというパラダイムシフト(環境の変化)が世界中に拡散した米系マネーの逆流を促している可能性が指摘されよう。(⇒韓国やタイでは、連日、自国通貨防衛のドル売り介入が行われている)
これは、投資マネーのフローに限らず、米国の多国籍企業がグローバル・インフレやスタグフレーションのリスクが高まる中で、経済が脆弱な国や地域からの資金引き揚げを検討しても不思議ではない。
また、大手邦銀が対外資産圧縮で円高をもたらした日本のバブル崩壊後の教訓からは、米主要金融機関がバランスシート調整に伴い資産切り離しや売却を余儀なくされる可能性も否定できない。
足元では、来週から始まる米主要金融機関の決算発表を控えて、業績悪化を織り込む悲観ムードに覆われており、一段のドル下落に対する警戒は怠れないものの、それ故に悪材料が相次ぐなかでのドルの不気味な底堅さはショート・カバー(ドル買い戻し)を誘発するリスクを孕んでいるといえるかもしれない。
(7月10日 11:20記)